アルコール依存症の治療
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一般には、お酒の量を減らせばよいのではないかと、よく言われます。
例えぱ、いつも3合飲酒していた人に、1合で我慢しなさいと指導しますが、このような指導は、アルコール依存症の予防の段階の手だてでして、
すでにアルコール依存症になった人にとっては、そんな減量なんて、とても出来ない相談なのです。
そのアルコール依存症の人の体質は、もう3合の体質になっているわけで、それを1合で押さえようとしても、そのために欲求不満が生じ、
イライラや、夜間不眠がおきてきます。
ほとんどのアルコール依存症の人は、奥さんの前では、うやうやしく1合の酒ですましているようでも、
きっと何処かで隠れて2合の酒を飲んでいるものです。
あるいは、たとえ、1ヶ月2ヶ月間、お酒をやめても、いつか必ず、爆発飲酒をしでかすのです。
アルコール依存症の人がお酒をやめて、しばらくすると出現する症状に禁断症状があります。
最近では、離脱症状という用語をつかいますが、この離脱症状は全くお酒を断った時はもちろん、お酒を減量した際にも出現します。
一晩中、大声で叫ぶとか、自分の目前を女房が通ったとて、「お〜、お〜い」と呼んだり(幻視)、
「小さい虫ケラが見える」、「天井から虫が一杯落ちてくる」などといって、部屋の隅で奇妙な仕草をしている等、いろいろな症状がみられます。
それほどなくても、時間や場所の感覚を失って、入院してもう5日も経っているのに「まだ、2日目でしょう」と平気で答える入院患者さんもおられます。
これは離脱症状をきたしている患者さんが意識のレベルが低下しているわけで”せん妄状態”といって意識混濁の状態に陥っているのです。
入院治療では、まず最初に、この離脱症状の治療からはいります。
アルコール依存症からの治療・回復とは何か?
次に、アルコール依存症から回復するということ、それは、赤ちゃんのように依存している人が、自立した大人の心境に帰っていくことなのです。
即ち、治療過程のなかで、その人の人格(性格)に変化をおこさせるということでありますが、このような話をしますと、
大低の患者さんは「性格は変わりませんよ」と考えているようです。
この考えは、大変な錯覚でして、例えば、体質について考えてみますと、生まれつき弱い体質の人でも訓練によって鍛えていけば強い立派な体格になることは、
よく知られています。
性格についても同様に私達が親から受け継いだ気質、これは遺伝的なものですが、その気質のうえに様々な学習体験を重ねて努力していくことによって、
それなりの性格(人格といってもよい)ができるわけで、この過程を普通に人格形成といっています。
例えぱ、気弱で、小心の人が、訓練によって、努力して克服してゆくことで性格が変ってゆくものです。
それは、弱い体質の人が、毎日毎日努力して身体を鍛えて次第に強い体質になるのと同じように、性格も変わるものだと考えてよいのです。
アルコール依存症に対する内観療法
このような基本的考えにもとずき、私は、現在、アルコール依存症の内観療法を行っています。
この治療方法では、まず<自己反省>ということが一番大切です。
”自分をみつめる”、”自分のいままでの過去を振り返ってみる”ということそうすることによって<自己を発見>できるということなのです。
<自己反省>によって、いままでの自分が、いかに自己中心的であったか、我侭であったかということがよく分ってきます。
アルコール依存症の患者さんはよく「自由を、自由を」といいますが、サルトルという哲学者もいっているように、
「自己と社会に責任を持った自由」こそ、真の自由なのでして、アルコール依存症の患者さんが強調する自由とは、我侭、身勝手、自己中心的ということであり、
それは丁度”赤ちゃん”であるということでしよう。
また、患者さんは、家族をはじめ周囲の人々から「お前は、酒さえ飲まなければ、いい奴なのに、腕の立つ男なのに」などといわれる人が多いようで、
「おれは腕の立つ男だ。誰にも負けやしない」と言います。
しかし現実にはお酒を飲んでいるわけでして、「酒を飲んでいるから、お前はダメな奴だ」というのが家族をはじめ周囲の人々の本音なのです。
その事がいつまでも分からずに患者さんは、「俺は、俺は・・・」というふうに考えています。
そこに自分はいないのに、自分の虚像を、自己像として描いているのです。
私は、これをアドバルーン自己像といっていますが。
ですから、家族も「酒さえ飲まなければ、よい男だ」と患者さんに言ってはいけないわけです。
家族が、患者さんにそのように言っていますと、いつまでも甘えてしまい、そのつもりになってアルコ―ル依存症から回復しないのです。
家族、周囲の人々は「あなたは酒を飲んでいるから、だめな人ですよ」と、しっかり教えてあげなくてはいけない。
そこに、アルコール依存症治療のある意味での厳しさがあるのです。
そして、「こんな自分の姿があったのか。」と本来の自已像がみえてきた時に、アルコール依存症の回復へのきっかけがつかめるのです。
このように、「自分は病気なんだなあ。」、「俺もアル中なのか。」ということに、ようやく気付くのは、大低の場合は、入院3〜4ヶ月ほど経ってからです。
アルコール依存症の場合やはり、脳が麻痺している状態が続いていますから、その回復にも時間が相当にかかるわけであります。
アルコール依存症の患者さんが、「あゝ俺は、こんなハカげたことをしていたのか、これではいけない。」と分った時に、はじめて、
その人の人生観の中における価値観の変化、価値基準の変化がおこってくるわけで、
そして本当の意味での治療意欲がでてくるし回復への期待感が出てくるのです。
「俺には酒をやめることは出来ないと思っていた。
しかし俺にも出来るのではないか」という期待感が生まれてきます。
過去の自分を反省したうえで、本当の意味での自己像がみえてくるのであります。
こうして自己の理想像がみえてきますと、もうその理想像に向って進んでゆく、病棟でも、患者さんが明るくなってきますのはこの段階に到達した時のようです。
そして、自己の理想像に向けて自己統制をしていく、この自己統制力、これは精神力といってもよいわけですが、
このような自己をコントロールする力がつきますと、アルコール依存症は随分回復したといえますし、
やがて患者さんが退院−断酒生活−積極的な社会参加という過程をたどり、本来のすばらしい姿をとりもどすことになるわけであります。
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アルコール依存症回復のための要因
アルコール依存症回復の要因については、表のように、治りやすいタイプAと、治りにくいタイプBとに分けてみました。
また、「人格レベルと回復過程」の項目の中の点線は、社会的レベルを示しています。
例えば、治りやすいAタイプの場合には、幼児期から次第に成長して大人になったが、ある時期にアルコール依存症となって人格レベルが低下したわけですが、このタイプの人は、治療によって回復するのは比較的容易なのです。
ところが、治りにくいBタイプとは もともと人格未熟な人でして、1回の治療では仲々回復困難です。
元来、人格レベルが低いわけで、アルコール依存症によってさらにレベル低下をきたしているために、社会的レベルに到達させるには、3回、4回と入院を繰り返すことになるでしよう。
しかし入院ごとに少しづつレベルアップしてくれば、それで十分だと考えています。
患者さんや家族だけでなく治療者にとっても相当の時間と根気を必要とします。
また「断酒状況」については、治りやすいAタイプの場合には、内部統制といって自分の力で統制していく事があるわけですが、治りにくいBタイプでは、外部統制、即ち他人から統制される状況にとどまっています。
これは「入院させられるから、お酒を我慢する」とか「女房がうるさいから・・・」といった状況でして、この外部統制の状況ですと、退院後3ケ月頃に再度飲酒をはじめる人が多いようです。
職業については、定職がある方が回復しやすいし、住居や家族についても同様のことが言えます。
幸いに家族がいる場合には、家族への教育がまた非常に大切です。
私どもの病院では月1回、家族講座を開催しており、毎回50人から80人の家族が参加されます。
家族への指導によって、患者さんが入院中にも、その奥さんが地域の断酒会に熱心に参加して勉強される例もみかけます。
次に、地域社会の問題であります。
それぞれの地域には、やはり専門病院か専門病棟があるのが望ましいと思います。
どうしても、一般の精神病院では管理も非常に難かしく、治療効果もあがりにくいと思います。
また、治療スタッフの能力如何によって回復率も変ってきます。
その次に、断酒会です。
このような会が、各市町村にあればよいと思います。
そして、その地域の人達がアルコール依存症の本当の姿を正しく理解してくれることが望ましいのです。
アルコール依存症を誤って理解している地域では、どうしても回復率は低いわけであります。
また、地域の行政の取り組み方、姿勢も、アルコール依存症回復に大きく影響することを申し添えておきたいと思います。
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アルコール依存症 Q&A
アルコール依存症は治りますか
コントロールを失う病気ですから、自己流でやめるのは無理があります。しかし治療と援助を受ければやめられます。最も大変なのは、本人が「何としても立ち直ろう」という強い意思を持って、アルコールを完全にやめなければなりません。
飲酒量を減らせば大丈夫という考え方は大変危険です。心と体がアルコールを覚えてしまっているので、アルコールを一口、口にするとすぐに抑制がきかなくなり、元に逆戻りしてしまう危険が強いので、完全に断ち切らなくてはなりません。
専門の治療の場や回復を続けるための自助グループは、全国各地にあり、実際にたくさんの人が回復し社会復帰しているますのでご安心下さい。
アルコール依存症の治療には薬がありますか
現在のところはアルコール依存症を治す薬はありません。薬は断酒の手助けをする目的で使用されます。例えば、気分の落ち込みが強い時は抗うつ薬、不安が強い時は抗不安薬、また、幻覚がある場合は抗精神病薬を使用します。また、お酒を飲むと気持ち悪くなる作用がある薬もあります。
どのような人がアルコール依存症になりやすい
子供の頃に虐待を受けて心に傷を負っている人、日常のストレスが強い人、また、気分の落ち込みが強い人はアルコール依存症へのリスクが高くなります。アルコールが、心の中で抱えている問題から逃れるための手段になってしまうからです。
男性と女性のアルコール依存症の違い
女性の場合はアルコール依存症になるきっかけが、心理的な問題に起因することが多いといわれています。女性の場合は家の中で隠れて飲酒することが多く、男性のように家族に暴力をふるったり、人間関係のトラブルを起こすなど目立った異常が現れにくい傾向があります。
そして、こうした自分の飲酒習慣や生活態度に強い罪悪感を抱き、その苦しさからますます酒に逃げたり、時には自殺を企てることも稀ではありません。ですから、異常に気づいたらすぐに病院で専門家に相談することが、本人をその辛さから救うことにもなります。
アルコール依存症は遺伝する
親がアルコール依存症であると子供もアルコール依存症になりやすい傾向があることが指摘されています。
ある調査では、親がアルコール依存症である場合、子供がアルコール依存症になる確率は18%であるのに対し、血縁関係はない養父母がアルコール依存症である場合、子供がアルコール依存症になる確率は5%と報告されています。
とすれば、こういう危険因子を持つ人は、より飲酒に注意して、アルコール依存症にならないように注意するべきといえましょう。だたし、アルコールは嗜好品なので、飲まなければ、アルコール依存症になる危険は防ぐことができるということです。
抗酒剤について
アルコールの大半は肝臓で分解さアセトアルデヒドという物質に変わります。このアセトアルデヒドは、非常に毒性が強く、頭痛や動悸、吐き気などの不快感を起こします。つまり、悪酔いの症状はこのアセトアルデヒドが原因です。お酒に弱い人はアセトアルデヒドが体にたまりやすい人といえます。
抗酒剤は、このアセトアルデヒドが分解されるのを阻害する作用があります。そこで、抗酒剤を飲んでからアルコールを飲むと、すぐに気分が悪くなって、お酒を楽しめなくなるのです。といっても、抗酒剤はあくまでもやめようとする本人の意思を手助けするもので、抗酒剤を飲めば酒をやめられるわけではありません。
アルコールを飲んでも顔が赤くならない人は大丈夫
顔が赤くなるのは、体内に入ったアルコールが分解される過程でできる有害物質アセトアルデヒドの作用です。一般に「酒に強い」と言われる人は、このアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが正常で、分解がスムーズなので、飲んでも顔に出ないのです。
反対に「弱い」と言われる人は、酵素の働きが弱い、もしくは全く働かない人で、アセトアルデヒドが長時間体内に留まり、顔が赤くなるのです。つまり、顔色が変わらない人は、たくさん飲んでも体調に異変がないため、気づかないうちに大量のアルコールを摂取してしまうことになり、かえって依存症になる危険性大なのです。
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抗酒剤の作用と副作用
アルコール依存症の治療に抗酒剤という薬を使うことがあります。ここでは、この抗酒剤について考えてみましょう。
酒席の光景を思い浮かべてください。みなさんのまわりにも、飲酒したときに顔がすぐに赤くなる人と全く顔に出ない人の二通りのタイプの人がいると思います
(余談ですが、日本人ではこの二つのタイプの人が半数ずついるといわれています)。
抗酒剤は一時的にお酒に対して、非常に弱い体質をつくる作用があります。特にお酒に弱い人は飲酒するとすぐに顔が赤くなり、
さらに飲酒すると頭痛や吐き気など不快な症状が出てきます。元々お酒に強い人にこれらのお酒に対する反応を起こし、お酒を飲めなくするわけです。
でも、この抗酒剤を飲んだからといって、けっしてアルコールが嫌いになったり、アルコール依存症が治るわけではありません。
ただ、酒害者が自らのアルコール問題に気づき、断酒を決意してそれを実行に移そうとしたときに、
この抗酒剤を服用すると断酒の継続が少しでも容易になるという効果が発揮されるだけです。また、抗酒剤さえ飲んでいれば、断酒を続けることができるかといえば、そんなわけではありません。断酒会やAAなどの自助グループへの出席、専門医療機関への定期的な通院などと併用してその効果が生かされるのです。
抗酒剤には、水薬であるシアナマイドと粉薬であるノックビンの二種類があります。
どちらも、一日一回服用すればその効果が生じてきます。前者は無味無臭であるため、
以前は家族がアルコール依存症者本人に内緒で味噌汁やお茶に混ぜて飲ませることもされていました。
しかし、これだけでお酒がやめられるわけではなく、逆に薬を黙って飲まされていたことが本人にわかったときに、家族への反発を生じさせるだけです。また、身体に危険が及ぶこともあり、患者の人権を侵害しているとも考えられます。
抗酒剤は、酒害者自身がその効果を自覚し、自らすすんで服用したときにその効果を発揮します。いやいや飲んでいたのでは、意味がありません。
ただし、一部の専門医療機関で入院中に抗酒剤を服用するよう指導しているところもあります。それには、抗酒剤服用というよい習慣を入院中から身につけるため、また副作用の出現を見るためといった理由があります。
断酒を継続していると、強烈な飲酒欲求が湧いてくることがあります。これは病気の症状として生じるもので、
アルコール依存症者ではいつ誰に起こっても何の不思議もありません。そんなとき抗酒剤を飲んでいると、
アルコールを口にすることが出来ないというあきらめが出来るため、必要以上に悩むことがありません。
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